『オアシス』 ネタバレ

現在新作『ポエトリー アグネスの詩』が絶賛公開中のイ・チャンドン監督の2002年作の『オアシス』
観たのはもう随分前なのですが、まだ何も書いたことがなかったので何かかを書こうと思います。

自分にとってとても大切な一本なのですが、一体それは何故か?を考えてたのです。

というのも、紛れもない傑作にもかかわらず、「人に気軽に薦め難い」性質の作品だからです。
(同じように「傑作なのに薦め難い映画」としては『ブルーバレンタイン』や『ファニーゲーム』等があります。理由はまた別ですが。)

主人公は轢き逃げで殺人を犯してしまった社会不適合者の青年と脳性麻痺の女性です。
そして物語は、そんな二人のラブストーリーです。

どうでしょう。
これだけでもう「観たいとは思わないな」と思う人も大勢いるのでは無いでしょうか。
でも、この映画は紛れもなく「観た方が絶対に良い傑作」なのですよ。

しかし世の中には、轢き逃げを起こしてしまった社会不適合者はともかく、脳性麻痺の女性が主人公で出てくる映画を観たい!と思う人が少ないのでは無いでしょうか。
それは「障害者が出てくる映画?何がなんでも今すぐ観たい!」という人が決して多くないのと同じ理由で、日本のドラマや映画でわざわざ居ない事にされている障害者をわざわざ観るという行為は不謹慎だと思われるのでは無いだろうか?という怯えかなんかじゃないでしょうか。
だけど何も僕も観たい!と思われてない物をわざわざ観せたいとは思ってないです。
そんな状態でどんな傑作を観てもきっと20%も伝わらないだろうと思うからです。
これはホラー映画を人に勧めるときによく陥る事態です。

だから『オアシス』はその圧倒的な作品力にもかかわらず、「何が何でも観て!」とは言い難い作品になってしまってたのですね、僕にとって。
コメディではない、というのも理由の一つかもしれないです。
ファレリー兄弟の作るコメディ作品にはことごとく障害者が出てきますが、その描かれ方は実に痛快で爽やかで陰湿です。
つまり、ごく普通の人間のひとりとして描かれています。
『リンガー!』や『ふたりにクギづけ』なんか強烈です。
勿論『オアシス』も実に魅力的な人間として描かれているし、笑いの要素も少なからずあります。(特に豆腐のシーンなんか最高です)

でもやっぱりコメディとして受け取れない以上の過酷な状況が主人公の2人を包んでいるのが大きいです。
青年は、殺人を犯してしまったために家族親戚から「早く居なくなって欲しい」と思われています。
女性は、兄夫婦に障害福祉を利用されるだけされて一人ぼっちで生きています。

2人とも、「家族」を手に入れたいのに、家族側からそれを拒否されてしまっているのです。

そしてそのことこそが僕にとってこの作品を大切な一本せしめているのでした。

2人とも、ただただ単純に、「安心できる家族を手に入れたい」だけで、それに向かって真っ直ぐに生きている。
なのに、世界がそれを許さない。
しかもそこに悪意は、全く介在しない。
それ故に、誰も悪くない。
にも拘らず、幸せには程遠い。

自分独りでは満ち足りない幸せを他者に求める人。

その行為は決して間違っていないと思うのです。

そしてそれこそが、現在僕が書いてる小説『最弱の支配者、とか。』のテーマでもあるからです。
小学館ガガガ文庫より絶賛発売中。
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